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「無党派層と認識の穴」山口二郎(北海道大学教授)@3月28日投稿
今回の選挙でも、無党派層の動向が注目されている。最近の世論の動向、日本社会の動きを見るにつけ、無党派というのは確固たる見識や理念を持っている
わけではないし、民主主義を担う実力を持っているわけではないように思える。無党派層の中でも二極化が進み、理性と良心の無党派と、感情と情動の無党派
に分かれているとでも言おうか。
内田樹氏の近著『下流志向』で、同氏は、学力が低下したと言われる最近の若者について、それらの人々はメディアを通して世界を見ても、意味を理解でき
ない穴のようなものがたくさん空いているのではないかと指摘している。さらに、そのような人々は意味がわからないことにストレスを感じないという特徴が
あるとも述べている。私はこの記述を読んで、小泉政治や石原都政の人気のからくりが分かったような気がした。小泉前首相や石原都知事は無党派と呼ばれる
人々によって支持されている。彼らの政策や言動を子細に検討すれば、普通の市民にとって有害なもの、見るに堪えないものがたくさんあるのだが、彼らを支
持する無党派の人々にとって、それらの政策だの言動だのは、「意味不明の穴」なのだろう。
さらに、人間には多かれ少なかれ、他人をバカにしたり差別したりすることによって優越感を得ようとする醜い側面がある。そうした劣情の部分が石原の支
持の原動力となっているとも言えるだろう。
今回の選挙は、まさに良心と劣情の戦い、理性と衝動の戦いである。問われているのは無党派層の品性、品格である。
「政治と言葉−まずはゆるりとまいりましょう」小原隆治(成蹊大学)
「三国人」「ばばあは有害」「障害者に人格あるのかね」。石原都知事から吐かれた数々の暴言の一部である。
わたしはひところアメリカで流行ったPC運動(ポリティカリー・コレクト)のような言葉狩りに類する考え方はあまり好みでない。とくに市民が世間の常識やエスタブリッシュメント的なもの、なかでも権力者を取り上げて批判するとき、そこに毒気のある風刺やたまにエゲツない言葉が含まれていても、目くじら立てるほうがどうかしているとさえ思う。だが、権力者が市民に対して、なかでも立場の弱いものに向かって投げかける言葉の問題となれば、話しはまったく別だ。
どうして日本政治では、政治家の言葉がこれほど軽いのかと思う。名言が政局を変えることもなければ、失言で職を失うこともない。そして、そうした政治のあり方を支え、許しているのはわたしたち有権者であり、メディアである。
いまから7年前にブレア政権のもとでロンドン市(GLA)が復活し、市政史上、初めて市長選挙が行われることになった。有力候補は、労働党公認候補のフランク・ドブソン、保守党公認候補のスティーブン・ノリス、労働党を除名されながらも市民に背中を押されて出馬した無所属のケン・リビングストンなどである。
労働党支持者のなかでもなかなか人気が上がらないドブソンが選挙前、記者会見でこんな発言をした。「おふくろからいつも赤毛には近づくなと言われていたから、なんだかいま本当に晴れ晴れとした気持ちだ」("I am somewhat relieved really, because my mum always told me to steer clear of redheads.")。
リビングストンは左派政治家で「赤いケン」(Red Ken)のあだ名があったほどなので、ドブソンとしてはそれに引っかけ、リビングストン批判の姿勢をせいぜい気の利いた冗談で示したつもりだったのだろう。
わたしにはよくわからないのだが、イギリス社会には毛髪の赤い人に対して、衝動的だとか信用ならないとする根拠のない差別意識がまだあるのだという。ドブソンの発言はそうした差別意識を前提としたものだったから、世間からただちに厳しい批判を招いた。
一例をあげると、ラジオの人気DJで赤毛のクリス・エバンズは、すでにリビングストンに対して10万ポンド(約2,000万円)の献金をすると表明していたが、この失言事件後、献金を2倍の20万ポンドに引き上げたいと宣言した。
2000年5月に行われた投票の結果、リビングストンがロンドン市長に当選し、ノリスが次点、ドブソンは第3位となった。失言事件だけがドブソン惨敗を招いたとはもちろんいわない。だがこの事件は、民主政治の蓄積がある彼の国で、政治家の言葉がどれほど重いかを示すエピソードにはなっている。
「政治と言葉」または「政治家の言葉」。これが今度の都知事選挙で問われる最大の争点だといってもいいと、わたしは思う。
(参考)小原隆治「英国の地方選挙事情」(『自治総研』2003年7月号)
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